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最高裁判所第三小法廷 昭和47年(行ツ)67号 判決

上告人 大東秀幸

被上告人 神戸税務署長

訴訟代理人 枝松宏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山平一彦、同高谷一生の上告理由について。

本件における公売の通知は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するてとができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 江里口清雄 関根小郷 天野武一 坂本吉勝 高辻正己)

上告理由

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかなる法令の違背がある。

一 原判決は、「本件における公売通知には抗告訴訟の対象となる行政庁の処分には当らないと解すべきであり、したがつて右公売通知の取消を求める控訴人の本件訴は不適法である。」と判断し、その理由として、「国税徴収法第九六条に基ずく公売通知は、それ自体としては相手方の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではないから、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分とはいえない。」とする本件第一審の判決理由を引用している。

しかしながら国税徴収法第九六条に規定する公売通知は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分に当ると解すべきものである。

二 国税徴収法は、第九五条において、公売をするときは公売期日の一〇日前迄に公売の公告をすること、並びに、第九六条において、公告をしたときは滞納者、交付要求をした者及び公売財産上の担保権者等で知れている者に公売の通知をすることを税務署長に義務ずけている。而して此の二つの処分は共に公売実施の要件となるものである。

国税徴収法第一七一条は、督促、差押、換価処分乃至配当処分に関し欠陥があることを理由とする不服申立又は訴の提起について、滞納処分手続の安定を図り、又換価手続により権利を取得し利益を受けた者の権利、利益の保護を図るために、厳重な期間の制限を定めているが、その反面、同法第九六条は、滞納者及び利害関係人が、行政庁の違法な処分によつてその正当な権利を害せられることがないように、事前に権利行使の機会を与えられるよう、税務署長が滞納者等に公売に関する重要な事項等を通知すべきことを法定している。

従つて同条に規定する公売の通知は、滞納者其他の利害関係人に対してその法律上の地位に重要な影響を及ぼす、行政庁の処分と云うべきであつて、抗告訴訟の対象となるものである。

三 以上述べたところから明かなとおり、公売の公告と公売の通知とは共に公売をするために税務署長がなすべき行為として規定されているのであつて、全く同じ評価を受けるべきであると考えられる。前者については、「指定の期日に於て滞納者の財産の公売を決行すべき効果を生ずる行政処分なるを以て自己の財産を公、毛売すべき旨公告せられたる者その公売を不当とする時は必らずしも公売処分の結了を待つことを要せず右処分に対し行政訴訟を提起し得るものと云わざるべからず」とする旧行政裁判所判決(大正四、三、一〇行判集一九三頁)があり、最高裁判所も不動産差押の効力発生前になされた公売公告を違法であると判決して、それが抗告訴訟の対象となる行政処分であることを明らかにしている。(昭和三三、五、二四民集一二巻八号一一一五頁。)公売の通知についても同様に解すべきである。

四 国税徴収法第一七一条第一項第三号は不動産等についての第九五条の公告から売却決定までの処分について異議申立が出来ることを規定しており、公売通知処分が右の規定から除外されていると明記されてはいないし、同法の規定からすれば公売通知が同法に云う異議申立の対象とされていると解するのが相当である。前述した如く現行国税徴収法の下にあつて滞納者其他の利害関係人の権利を守るために重要な公売通知処分が同法第一七一条第一項第三号の異議申立の対象から除外されていると考えることは明かに失当である。

なお右同号は随意契約に於ける場合の公売の通知を異議申立の対象としているが、この場合との均衡を考えても公売公告後の公売通知も亦異議申立の対象になり得ると考えるべきである。もともと公売の通知はそれが公売の公告なくして行われようと公売の公告後により行われようと異議申立の対象とし得るものであるから、右のような規定があると解すべきである。

五 よつて本件公売通知の取消を求めた上告人の訴を不適法として却下した原判決は当然破棄さるべきものである。

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